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大阪家庭裁判所 昭和60年(少)519号 決定 1985年3月01日

少年 D・N(昭四三・一一・二九生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

1  昭和五九年六月六日午後三時五〇分ころ、兵庫県川西市○○○○館東側駐車場前路上で女子中学生を強いて姦淫しようと企て、待ち伏せていたところ、下校中のA子(当時一三歳)を認めて劣情を催し「妹が怪我をしたからチリ紙を下さい。妹の血をチリ紙で拭くからついて来て来れる。」等と虚構の事実を告げて信用させ、同日午後四時ころ、事前に下見していた同市○○×丁目××番地○○墓地内に同女を誘い込み、いきなり右手でその口を塞ぎ、「声を出すな、言う事を聞け。」と脅迫してその両手、両足首を所携の紐で緊縛した上チリ紙を口中に押し込み、セロハンテープで目隠しをし用意した安全カミソリをその首筋に突きつけ「大きな声を出すと殺すぞ」と脅迫して同女をその場に押し倒し下半身の着衣を剥ぎ取り、紐を解いて、自己の陰茎を同女の陰部に押し当てる等したが、姦淫の目的を遂げなかつた

2  前同日午後四時三〇分ころ、前記墓地内で、前記各暴行により反抗を抑圧されている前記A子から口封じのため、同女所有の生徒手帳一冊を強取した

3  同年七月一二日午後三時ころ、下校中の女子中学生B子(当時一三歳)に対し「妹が怪我をして血を流している。手伝つてくれませんか。」と虚構の事実を告げて信用させ、川西市○○×丁目××番×号の空家に誘い込み、やにわに同女に所携のカッターナイフを突きつけて「寝ころべ、殺そうと思えば殺せるんやで。」と脅迫してその場に押し倒し、チリ紙を口中に押し込み、ガムテープ等で両手・両足首を緊縛してその反抗を抑圧して両大腿部・臀部等を撫で回し、もつて同女に対し強いてわいせつの行為をした

4  同年七月一六日午後三時三〇分ころ、川西市○○字○○××番地付近路上で下校中の女子中学生C子(当時一四歳)に対し、「怪我をした妹を運ぶから手伝つて下さい。」と虚構の事実を告げて信用させ、同日午後三時四〇分ころ、前同所付近の雑木林内に誘い込んだ同女の左頸部付近に所携のカッターナイフを突きつけ「静かにせい、金を出せ。」と脅迫しその反抗を抑圧して同女所有の現金一二〇〇円を強取した

5  前同日午後三時四〇分ころ、前記行為により畏怖している前記C子の口を所携のがムテープで塞ぎ、目隠しをした上、川西市○○字○○××番地の×の空家内に連れ込み、そのころから同日午後四時三〇分ころまでの間、同家屋内で同女の両手・両足首をガムテープで固定して反抗を抑圧した後、ガムテープをはずして着衣を脱がせ、その陰部・乳房を手指で弄び、その口中に自己の陰茎を入れるなどし、もつて同女に対し強いてわいせつの行為をした。

6  同年七月二一日午前一一時ころ、兵庫県宝塚市○○×番×号先路上で通行中の女子高校生D子(当時一五歳)に対し、「妹が怪我をしたので、ハンカチを貸して下さい。」等と虚構の事実を告げて信用させて、同市○○×番先山林内に誘い込み、やにわに同女の背後から抱きつき、所携のカッターナイフをその顔面付近に突きつけ、「静かにしろ、暴れたら殺すぞ。」と脅迫して押し倒し、腹部に馬乗りになつてその顔面腹部を手拳で殴打し首を締めつけ口中にハンカチを押し込むなどしてその反抗を抑圧した上同女の着衣を剥ぎ取り、乳房・陰部を手指で弄び、その口中に自己の陰茎を入れるなどし、もつて同女に対し強いてわいせつの行為をしたが、その際、同女に対し約一週間の加療を要する右頬部打撲、両側頸部皮下出血斑、左膝蓋部擦過傷、左拇指(上肢)切傷の傷害を負わせた

7  前同日午前一一時三〇分ころ、前記山林内で、前記各暴行により反抗を抑圧されている前記D子から同女所有の現金約三〇〇円、診断券外在中の財布一個を強取した

8  同年七月二八日午後二時四五分ころ、大阪府高槻市○○町×丁目××番×号先路上で、下校中の女子中学生E子(当時一五歳)を認めるや劣情を催し「妹が怪我をしている。チリ紙を持つていないか。」等と虚構の事実を告げて信用させて、同市○○町×丁目××番××号○○株式会社○○アパート付近竹藪内に同女を誘い込み、やにわに所携のカッターナイフをその首筋に突き付け、ガムテープで顔面や両手を巻きつけ、着衣を剥ぎ取るなどの暴行を加えて反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したが、その際同女に対し加療約一〇日間を要する処女膜裂傷等の傷害を負わせた

9  前同日午後三時四五分ころ、前記アパート自転車置場で、前記E子所有のカバン一個外(時価合計約五〇〇〇円相当)を窃取した

10  同年八月二二日午後一時三〇分ころ、高槻市○○町××番地○○神社南西竹藪内で、誘い込んだ女子中学生F子(当時一四歳)に対し、やにわに背後から抱きつき、その場に押し倒してガムテープで猿ぐつわや目隠しをし、所携のカッターナイフを突きつけて脅迫し着衣を剥ぎ取る等の暴行を加えてその反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したが、その際、同女に対し加療約二週間を要する処女膜裂傷等の傷害を負わせた

11  同年九月一五日午前七時三〇分ころ、兵庫県芦屋市○○町××番×号○○神社境内で、誘い込んだ女子中学生G子(当時一二歳)に対し、やにわに所携の果物ナイフを突きつけガムテープで顔面を巻きつけ脅迫し、着衣を剥ぎ取る等の暴行を加えてその反抗を抑圧した上、自己の陰茎を同女の陰部に押し当てる等したが、その際同女に対し外陰部前庭擦過傷の傷害を負わせた

12  同年一一月九日午後四時二五分ころ、高槻市○○町×丁目×番××号○○寺○○会館内で、誘い込んだ女子高校生H子(当時一五歳)に対し、やにわに所携の果物ナイフを右頸部に突きつけて脅迫してその反抗を抑圧した上、同女所有の現金約六三八円を強取し、更に劣情を催し、同女を押し倒し、チリ紙を口中に押し込み両手を緊縛し着衣を剥ぎ取る等の暴行を加えてその反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したが、その際同女に対し処女膜裂傷の傷害を負わせた

13  同年一二月一〇日午後三時一〇分ころ、大阪府茨木市○○×丁目××番先山林内で、誘い込んだ女子中学生I子(当時一四歳)から金員を強取しようと企て、やにわに所携の果物ナイフを首筋付近に突きつけ「騒ぐな、金を出せ」等と脅迫し、ガムテープで顔面を巻き付ける等の暴行を加えたが、通行人らに発見されそうになりその目的を遂げなかつた

14  金員を強取した上強姦しようと企て、同年一二月一二日午後二時一〇分ころ、神戸市○○区○○×丁目××番×号K方敷地内で、誘い込んだ女子高校生J子(当時一七歳)に対し、やにわに所携の果物ナイフを首筋に突きつけ「金を出せ」等と脅迫してその反抗を抑圧した上、同女所有の現金約三五〇〇円を強取し、更に所携の紐で手首を緊縛し、タオルで猿ぐつわをした上、「暴れると殺すぞ。」等と脅迫し着衣を剥ぎ取る等の暴行を加えその反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫しようとしたが、その目的を遂げなかつた

15  業務その他正当な理由がないのに、前同日午後二時一〇分ころ、前記K方敷地内で、刃体の長さ一〇セチメートルの果物ナイフ一本を携帯した

ものである。

(法令の適用)

非行事実1につき  刑法一七九条、一七七条前段

同2、4、7につき 各刑法二三六条一項

同3、5につき   各刑法一七六条前段

同6につき     刑法一八一条、一七六条前段

同8、10につき  各刑法一八一条、一七七条前段

同9につき     刑法二三五条

同11につき    刑法一八一条、一七九条、一七七条後段

同12につき    刑法二四一条前段

同13につき    刑法二四三条、二三六条一項

同14につき    刑法二四三条、二四一条前段

同15につき    銃砲刀剣類所持等取締法二二条、三二条三号

(処遇の理由)

少年は小学生当時から実家の金銭持ち出しが始まり、昭和五六年四月豊中市立○○中学校に入学したが、自己中心的であるため級友に融け込めず仲間外れにされるなどした。少年は同年九月に三歳の女児にわいせつ行為をして児童相談所に通告され、その後も女児に対しわいせつ行為を行なつていたが、昭和五八年四月から同年一〇月にかけて七回にわたり小学二年から六年生の女児に対し陰部をさわる、中には瓶の破片をちらつかせて脅迫し陰部に手指を挿入する、陰部・乳房をなめる、自己の陰茎を被害児童の口内に入れる、尿水を飲ませるなどして会陰部裂傷等の傷害を与える強制わいせつ致傷等の事件をおこし、同年一一月一四日初等少年院送致(一般短期処遇勧告)決定を受け、播磨少年院に収容された。院内での成績は良好で異性関係に問題あるグループに属して性非行の再発防止を図るため矯正教育を受けたが、表面上の適応を見せたので、昭和五九年四月五日に仮退院となり、同月八日から前記高校に入学し、学級委員を務め、成績も良好であつた。しかしながら、高校内で親しい友人はできず、テレビ・エロマンがに熱中して同年五月ころから再び女子中学生等に対してわいせつ行為を行なうようになり、長期間にわたり本件各非行事実を反復して惹起したものである。

本件各非行の態様は何ら落度のない被害児童らを欺して、事前に下見していた人通りのない場所に誘い込み、前記のとおり刃物を用い暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧し、全裸にするなどしてその陰部に木の枝や瓶を挿入した上姦淫等の行為に及んでおり、その後も精液のついた陰茎をなめさせたり、中にはナイフで陰毛の一部を剃り尿水を飲ませる等の行為を行ない、更に口封じのために所持品を強取するなどして処女膜裂傷・拇指切創等の傷害を負わせている。

少年は同年六月二二日に友人と原付自転車盗及び無免許運転等の事件をおこしたが、同月二四日付で二号観察中の保護司に対し便せん三枚にわたる反省文を提出し、同年九月上旬には前記少年院に対し便せん約十枚にわたる更生の状況等を記載した手紙を送り、また、同月二一日の家裁調査官の調査にも表面上良好な回答をしたため、前記窃盗等の事件は審判不開始で終了した。

少年は本件各非行を保護者らに気付かれぬよう計画的・狡猾に行なつていたため、保護者・保護司・教師らは同年一二月二〇日の通常逮捕に到るまで本件各非行につき全く気付いていなかつた。

以上のとおりの本件多数回に及ぶ各非行結果の重大性、各非行態様の悪質さ、被害者らの被害感情や地域社会に与えた不安の大きさ等を考慮すると少年の社会的責任は大きい。また少年のこれまでの非行歴、少年院仮退院後の本件各非行の内容、現時点における結果の重大性に対する認識の乏しさ等からは少年の劣等感が強く、社会性に乏しく、自己本位わがままで、他人への配慮や共感性に乏しく情緒的に貧困で、特に性非行に対し罪障感に乏しい性格が認められ、少年の性格の歪みはかなり大きいものと認められる。それに対し少年のこれまでの保護処分歴等を考慮すると、現時点において、保護処分その他の保護的措置が少年に対し有効な矯正効果を直ちに発揮すると期待することは困難である。従つて少年に対しては未だ若年ではあるが保護手続ではなく、厳正な刑事手続により行為に対する刑事責任を追及しその更生を図ることも十分に考えられる。しかしながら、少年は本件1ないし12の各非行当時は一五歳であつたこと、現在一六歳三ヶ月であり、鑑別結果通知書によれば、IQ=一〇二で狭義の精神障害は認められず、働きかけ次第では多少とも改善される可塑性を有していると認められること、被害感情は未だ慰謝されていないが、保護者において今後は誠意を持つて示談交渉にあたることを確約していること、公益の代表者である検察官は本件各非行に対して刑事処分まで求めていないこと、その他諸般の情状を考慮すると、今回は保護処分を選択することが相当である。

従つて以上によれば少年の要保護性は大きく、その犯罪的傾向は進んでいると認められるので少年を特別少年院に送致することとする。なお、前記のとおり少年の性格の歪みは大きく、少年は、院内での矯正教育に表面上適応するがその真の改善は困難であると予想されるので、仮退院については矯正効果を見極めた上、特に慎重な考慮の下決定されることが望まれる。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 水谷正俊)

処遇勧告書<省略>

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